毎月1日の「悪魔のトリセツ」は、パンプスのお話をアップしています。
まず、『悪魔のトリセツNo.114 『パンプスに「楽チン」を求めないで』に、コメントをいただき、ありがとうございました。
理系目線で、パンプスの驚きの構造について取り上げている漫画を教えて下さいましたので、そのアドレスをここに紹介させていただきます。
パンプスは履き口が大きく開いているので、これで歩けるような仕組みを作ってあるのは本当に驚異的です。
後ろ半分、特に土踏まず部分の幅が広すぎたり、踵の芯が柔らかすぎて広がってしまうと、スリッパのように、踵がパカパカになって歩けなくなります。
そこで今回は、パンプスの履き口が、大きく開けてある意味を考えたいと思います。
まず何と言っても、パンプスは、足の肌をギリギリまで見せるための、セクシーな履き物です。
ところで、日本と西洋では、ライフスタイルしかり、人体の「恥ずかしい」と感じる部分も、少し違うようです。
西洋では、背中や肩、胸の谷間も含めて、首筋から胸回りの襟ぐりを大きく開けて、その美しさを誇らしく強調した「ローブ・デコルテ」という、ロングドレスを着ける事があります。
それで、「デコルテ」は、女性の胸回りエリアを表す言葉にもなっています。
日本でも最近は抵抗感が薄れて来つつありますが、西洋では年齢に関係なく、エルダー世代も、胸元を大胆に開けたデコルテラインのお洒落を楽しんでいるそうです。
さて、ローブ・デコルテは、胸元を大胆に開けているのに、ドレスの裾は長く、足元を隠しています。
足は隠すべき、恥じらいの部分で、特に爪先は隠します。
踵は見せても、足のゆびは特に見せられない部分です。
セクシー過ぎるのだそうです。
だから、結婚式などの、神様の前での装いは、足のゆびを隠すよう、靴のデザインに気を付けなくてはなりません。
パンプスは、足のゆびを隠す代わりに、足の甲を美しく見せ、トゥライン(爪先の形)で、ゆび先の形を連想させるのでしょう。
だから、パーティーなどの短時間、特別なシーンに着ける靴で、時には履き心地や歩きやすさより、デザインが優先されます。
もうひとつの理由に考えられるのは、着脱のしやすさです。
これこそ、日本のライフスタイルにぴったりてす。
西洋と違って、家では靴を脱ぎ、ちょっと裏庭などに出るだけにも履き物が必要です。
そんな時は、簡単に着脱できるスリッパやサンダルのようなデザインの「庭履き」が愛用されてきました。
日本の男性の多くは、長時間でも歩きやすいよう紐靴を着けていましたが、女性は一般的に、家庭や家族のマネジメントを任され、家で過ごす事が多く、脱ぎ履きが頻繁でした。
戦後しばらく、多くの日本女性には、パンプスなら庭履きのように簡単に着脱でき、しかもお洒落や女性らしさと両立できて、便利だったのでしょう。
昭和の後半から、多くの女性が男性同様、外へ出て働くようになりました。
仕事の内容も、男性と変わらなくなりました。
男性のように、紐靴を着ければ活動しやすい筈ですが、家庭のマネジメントは今でも女性に任されているのが現状のようです。
出勤前後も、息つく間もなくハウスキーピングをするので、やっぱりパンプスが便利、ということになるのでしょう。
最後になりましたが、「デコルテ」という言葉は、パンプスを指す言葉でもあるそうです。
やはりパンプスとは、靴の甲ぐりを大きく開けて、足元を美しく誇らしく強調する履き物なのですね。
上級シューフィッター・ウォーキングマスター・レザーソムリエ 永田聖子