人を幸せにする履き物であるパンプス、とりわけハイヒールは、時に「悪魔」と呼ばれます。
しかし、本質を理解し、上手に扱えば、人々を幸せにする「天使」です。
悪魔から天使に変える「取り扱い説明書」、それがこの「悪魔のトリセツ」です。
さて、先日は、林美樹シューフィッターのブログ「ブランノックデバイス 計測器から見る日本とアメリカの計測の違い」を私も拝読しました。
とても勉強になります。
↓こちらがそのリンクアドレスです。↓
みなさんは、足のサイズを計ってもらったことはありますか?
日本の靴のサイズの表記は、靴のサイズではなく、靴の中に入る足のサイズの目安が書いてあります。
それは、日本産業規格=JIS規格に基づいています。
「足と靴と健康協議会」のwebページに、それについて書いてあります。
↓こちらをご覧ください↓ http://fha.gr.jp/ashi/size
↓もう少し詳しくはこちらのサイトにあります↓
靴を作る時には、その人の足の、いろんな場所を測って木型をつくり、それに合わせて靴を造ります。
様々な形や大きさに変化する生きた足の形を、木などに写して、それに底やアッパーを張り合わせる為の型にするのです。
木型を作る前に、足の計測をしますが、その時には足の甲と趾のジョイント部の、甲の骨の先の一番出っ張っているところを「ボール部」と呼び、そこも測ります。
その値を「ボールガース」と呼びます。
話は戻りますが、足の、縦の長さ「足長」とボールガースである「足囲」の対比を元に、AからFまで名前を付けてあります。
それを、「ウィズ(width)」と呼びますが、英語では「幅」の事です。
日本では、ボール部の横幅のことを「足幅(そくふく)」と呼びます。
ややこしいけれど、
「足幅」と「足囲」は、別物です。
ボール部の幅が細くて甲が高い靴も、
ボール部の幅が広くて甲が薄い靴も、
足囲表示は同じになります。
ところで、人の足は、いつも変化しています。
例えば、立っているときと、座っているとき、足を上げているとき、片足で立っているとき、全て足の大きさは変わります。
足の底だけでなく、土踏まずやくるぶしの高さも変わります。
最も変化するのは、足の趾と、ボール部です。
趾は、地面をつかんだり蹴ったり、身体を下支えしたりなど、様々な動きをするために開いたり閉じたりする、動き回る部位です。
その付け根から、踵の方に向かって束ねられている足の甲部は、サスペンションの働きもこなしているので、落ちてくる身体を安全に受け止めるよう、開いてつぶれたり、浮いてつぼまったりを繰り返しています。
最近よく耳にする、「横アーチ」の働きのひとつです。
その上、身体を前進させるために、足はあおり運動をします。歩みを止めて足を下ろしても、慣性の法則に従って、靴の中ですぐに止まり切れず、少し前に動いてしまいます。
歩く時の足は、上下だけでなく、とても複雑な動きをするのです。
靴においては、爪先はそのファッションの方向性を決める部分を兼ねています。
靴の爪先は、「靴の顔」とも言えます。
だから、たいていの靴の爪先は先端部に向かって形を整え、つぼませています。
硬い芯の中で、趾先は、前方の障害物から守られつつも、動きを制限されているのです。
一方、靴のボール部は芯を省いてあり、足のボール部がつぶれて開くとき、一緒に横に伸び、足が浮いてボール部がつぼまると、革の弾力で戻るようになっています。
つまり、靴は、足の甲がつぼんでいる時に足が前に逃げないよう、ボールガースより小さく造り、足が体重を受けてつぶれて横に広がる時には靴も少し横に伸びるように作られています。
だから、フィッティングには、靴と足の幅を合わせることが、とても大切な考え方です。 幅が広過ぎると、靴の中で足が左右にもぶれてしまうからです。
それは、靴の歴史の長い西洋の、絶妙な考え方だと思います。
それでも、個人差や左右差のばらつきが大きすぎる足に、既製品を合わせるのは至難の技です。
それから、足と靴を合わせなくてはならないのが、足の後ろ半分と、かかとです。
そこが合っていると、体幹から繋がっている脚と靴を、踵を通して繋ぎ合えるので、靴の操作性が上がります。
ボール部の幅ではなく、ボールガースで考えることで、その足の後ろ半分が大きいか小さいか予想することができます。
日本の既製品の靴合わせでは、「足囲」で足の後ろ半分を「察する」のです。
これまた、絶妙だと思います。
靴を着けた時には足に合ったように見えても、歩き出すと合わない事が多いので、表示するデータは必要最低限の方が、却って選びやすいように思います。
靴には足長が表示してあり、中には足囲も表示してあるものがありますが、
足幅を表示してあるものは、売り場に並ぶ既製品には見かけることは極めて少ないようです。
靴の爪先は、デザインを表現する部分でもあり、表示基準はありません。
それを意識しておかなくてはなりません。
パンプスの美しく小さくまとめられた爪先は、足囲表示が大きくても、広くてらくちん、というわけではありません。
ボールガース部分を「ウィズ」と呼ぶことで、靴屋さんさえも、混乱しがちなのです。
今回は、なかなかの長文になってしまいましたが、ここで最後に、「悪魔の取説」をひとつお伝えしましょう。
爪先が小さくて美しいデザインは、足の爪先を、そのようにメイクアップするためのコルセットです。 足囲表示が大きい事と、靴の爪先が大きいこととは、別のことなのです。
足長と足囲を知り、それを基準に靴を探しましょう。
試着して、必ず歩いてみましょう。
上級シューフィッター・ウォーキングマスター・レザーソムリエ 永田聖子